ふくろう絵本屋

福井美佳です。私の活動を紹介します。

銅版画「a Long Story」

今月は、銅版画を作りました。でも出来がイマイチだったので、去年の作品をお見せしつつ、エッチングとアクアチントについて紹介します。

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「A Long Story」ハーネミューレ、エッチング/アクアチント、200x180mm

銅版画は、昔の本の挿絵などによく使われていました。なかなかおもむきがありますよね。この絵は、なんとなく手を動かしていたら、長い物語の1シーンのようなスケッチになったので、そのまま拡大して下絵にしました。もっと現代的なモチーフを描くと、深みがあっておしゃれな作品になります。。。

エッチングは、銅板の表面を薬品で腐食させて溝をつくり、溝にインクを詰めて紙に写し取る版画の手法です。上の版画にも、細い線が縦横斜めにたくさんみえますが、これがエッチングの線です。まず、ピカピカの銅板の上に、べたべたしたグランドという液体を流します。グランドが乾くと膜になって、銅板の表面が薄く覆われます。膜の上に下絵を転写し、先に針のついた鉛筆のような形のニードルで膜を軽く引っ掻くと、膜の表面がはがれて、ピカピカの表面が線状にむき出しになります。ニードルで銅に傷をつけるのではなく、膜だけをはがします。次に、希硝酸か塩化第二鉄の液に銅板を数分浸しておくと、むき出しになった部分の銅だけが、液体と化学反応を起こして、線状の傷(溝)ができます。この行程を腐食といいます。腐食が終わったら、全部の膜をはがします。ピカピカだった銅板の表面に、うっすら溝が入っているのがみえます。さらに、銅板の表面にインクをローラーで塗って、布で表面のインクを拭き取って、溝の中にだけインクを残します。最後に、十分に湿らせた紙を銅板に重ねて、プレス機で圧力をかけると、溝の中のインクが紙にすいとられて、紙に線が写し取られるのです。腐食する時間を長くすると、溝が深くなり、インクがたくさん残るので、線が濃くなります。一回目の試刷りでは、線が足りないことが多く、白っぽいイメージになります。満足するまで、何度も、グランドをひいてニードルで溝を追加し、腐食をして試刷りを行ったのち、本刷りを行います。

アクアチントも、銅板の表面を薬品で腐食させるものですが、溝ではなく、細かい点描のような凹凸をつくります。上の版画だと、灰色や黒く塗ったような部分が、アクアチントでできた面です。拡大すると、白い点描がみえます。まず、銅板の腐食させたくない領域に黒ニスなどの液体を塗って保護します。次に、むき出しの銅部分に松やにの粉をふりかけて、アルコールランプなどで裏から熱して粉を溶かし、銅板に固定します。さらに、さきほどと同じ希硝酸か塩化第二鉄の液に銅板を浸すと、松やにの粉も黒ニスもついていない、むき出しの銅の部分だけが、液体と化学反応を起こして凸凹になるのです。最後に、凹部分にインクを詰めて紙に写し取ると、灰色の面のようにみえます。アクアチントは、粉の量と腐食時間の長さで黒さが決まるので、時間さえ正確にはかれれば失敗は少ないと思います。

印象的な銅版画は、構図がよく、白から黒までの諧調が多く、細部まできれいです。エッチングの場合は、線自体の濃さに加えて、線と線の間隔の疎密で諧調が違ってみえます。線の間隔が広いと白っぽくみえ、線の間隔が狭く縦横斜めに重なっていると黒っぽく見えます。線を縦横斜めに描いて中間諧調の面を表現するのをハッチングというのですが、均一な力と間隔で線がひけると、仕上がりがきれいです。私は、ハッチングが超絶下手なので、エッチングだけだと線がガサガサで目立ちすぎて、諧調がわかりにくくなります。。。仕方ないので、アクアチントをエッチングの上にかけて、線の汚さをごまかしつつ、諧調を明確にしました。ハッチングは、いろいろな画材で使える万能の技術なので、上手くなりたいなと思っております。